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婦人科の漢方 vol.4 婦人と瘀血

今月の漢方

 過去三回にわたり婦人の病症を取り上げてきました。月経期の不調として生理痛や生理不順、PMS等がありますが、それを放置すると症状が重くなったり、病気の改善に時間がかかってしまいます。特にこれからお伝えする「瘀血」は長期に渡って形成されていくものであり、放置しても自然治癒は難しい病理形態です。瘀血を改善する事で様々な婦人の不調を軽減する事ができます。

瘀血について

 「瘀血」とは血の滞りや血塊の事で、瘀血ができると体内の血液循環が悪くなり順調に流れない状態となります。瘀血ができる原因は色々ありますが、様々な不調状態を長く放置すると最終的に瘀血が生じると言われています。例えば、ストレスによる気の滞り、冷えや熱証、血虚でも血が滞ると瘀血になる可能性があります。瘀血の特徴として常に同じ場所が痛む、痛みは強く刺痛、夜に悪化する、酷くなれば塊ができる等があります。婦人の場合は月に一度、子宮に大量の血が集まり月経として排出されます。この月経で、不要な血がスムーズに排出されないと瘀血となる確率も高くなります。この他、水(津液)の代謝に異常が起こり、長く停滞すると「痰湿」という病理物質が発生します。痰湿はネバネバして一度できるとくっついて除去が困難です。瘀血は、この痰湿と結びつきやすく、その病証には婦人の場合、下焦に発生する子宮筋腫や卵巣嚢腫、多嚢胞性卵巣症候群等があります。目安として、月経時の強い痛みが毎回起こる、経血が黒っぽい、レバー状の塊が出る等は瘀血の主な症状です。

上焦・中焦・下焦について

 漢方では人間の身体を上・中・下の三部位に分けて考えます。横隔膜から上の部位で、心と肺、頭部を含めたものを上焦と言います。横隔膜から下、臍から上の上腹部で脾、胃、肝、胆を中焦と言います。臍から下の部位で小腸や大腸、腎や膀胱、生殖器を下焦と言います。漢方薬は生薬の性質によってそれぞれ上焦、中焦、下焦に作用し効果を発揮する物もあります。

瘀血に用いられる代表的な漢方

<桂枝茯苓丸>=けいしぶくりょうがん

構成生薬 桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬

 桂枝茯苓丸の最大の特徴は「活血化瘀」と「緩消微塊」です。主薬は桂皮と茯苓で、桂皮は温めて血行を良くし茯苓で利水させ、活血作用のある桃仁と牡丹皮は桂皮と共に瘀血を除去していきます。芍薬は血を滋養して月経を整えます。比較的体力がある方や、のぼせやすいのに足が冷えたり、血虚はないが下焦に瘀血があったり、むくみやすい方に使われます。桂枝茯苓丸にヨクイニンが加わった処方に「桂枝茯苓丸加ヨクイニン」という漢方薬があります。ヨクイニンとはハトムギの皮を除いた種で利尿作用があり、余分な水分を体外へ排出する働きがある為、むくみや肌荒れ、イボ等のできものにも効果があります。桂枝茯苓丸にヨクイニンをプラスすることでさらに効果が高まり、瘀血に痰湿が結びついた物も解消していきます。

<血府逐瘀丸>=けっぷちくおがん

当帰・芍薬・地黄・川芎・柴胡・枳実・甘草・桃仁・紅花・牛膝・桔梗

 血府逐瘀丸の最大の特徴は「活血化瘀、理気止痛」と「補血」です。疏肝解鬱、理気止痛の四逆散と、補血作用のある四物湯が入っています。桃仁、紅花、川芎、牛膝で活血させ、柴胡、枳実で気の巡りを良くしていき、当帰と地黄で補血し、川芎、芍薬は鎮痛に働きます。桔梗は諸薬を上焦に導き、牛膝は下焦に導く引経薬としての効果があります。血府の府は横隔膜の上、胸心部を意味しており、血府逐瘀丸は上焦、下焦の両方の瘀血に効果があります。頭痛・頭重・肩こり・のぼせ・動悸等にも用いられます。

<丹心方>=たんしんほう

構成生薬 丹参・川芎・木香・芍薬・香附子・紅花

 丹心方の最大の特徴は、「活血化瘀」と「止痛」です。丹心方の主役は丹参です。丹参には瘀血を除去し血管を拡張する働きがあるため血圧降下作用、さらに鎮痛効果も期待されます。川芎、紅花で活血し、気を巡らせる木香、頭痛や腹痛など様々な痛みに用いられる香附子が配合されています。丹心方は中年以降、または高血圧傾向で頭重・肩こり・めまい・動悸などに用いられます。

瘀血を予防する食養生

 血液をサラサラにする食材として知られる青魚や玉ねぎ、青じそ、海藻類、キノコ類、大豆製品をバランスよく取り入れましょう。

水湿・痰飲を予防する食養生

 利尿作用のあるハトムギ、とうもろこし、なんばんげ(とうもろこしのひげ)、きゅうり、小豆、大豆、黒豆などの豆類もお勧めです。果物は体内に湿邪を溜め込む原因になるので食べ過ぎには注意しましょう。

 漢方で女性は血の生き物と言われ、良い血を生成し体全体に巡らせる事で、健康が維持されます。血が大量に必要な臓器は、心臓、脳、子宮でこの3つの臓器が正常に働くために血が集束しますが、その分、瘀血が発生する可能性も高くなります。不通即痛といって瘀血は強い痛みを伴う事が多いので、我慢せずに早めにご来店ください。

次回のご案内

 今年は梅雨が長く湿が溜まりやすい上に、外出自粛、マスク常用の状況でした。梅雨が明けたら暑い夏がやってきます。次回は高温多湿の日本の夏に起きる肌トラブルについてご紹介します。