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今月の漢方 風邪

今月の漢方

寒さが身に染みる季節がやってきました。今年は例年とは違い、新型コロナウイルスの影響で、うがい、手洗い、マスクを徹底しながら、風邪を引かないように注意している方が多いと思います。

一般的に人が1年間に風邪をひく回数は、平均3回~6回です。風邪は1週間程度で治ることが多く、発熱が3日以上続く事は殆どありません。但し、「風邪は万病の元」と言われるように、風邪だからと言って油断をしていると、二次感染を起こし、風邪がきっかけになって中耳炎や副鼻腔炎、さらに気管支炎、肺炎などの合併症を引き起こす事があります。風邪かな?と思ったら早めに対処する事が重要です。

かぜ症候群・・・風邪の症状は、くしゃみや鼻水、喉の痛み、咳、発熱等、共通する症状が多い為、「かぜ症候群」という呼び方でまとめられています。風邪の原因は、その殆どがウイルスや細菌等の感染によるもので、誰もがよくかかる病気です。風邪には「ウイルス性の風邪」と、「細菌性の風邪」の2種類があります。一般的に風邪と言われるものはウイルス性のものを指し、全体の90%を占め、症状は軽く比較的短期間で治ります。残りの10%が細菌性の風邪で症状は重く長引きます。風邪に関係する細菌は、肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌等があります。一方、ウイルス性のものは200種類以上あり、ライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス等があります。人に感染するコロナウイルスは、現在4種類確認されており、風邪全体の20%~30%を占めます。今年大流行しているコロナウイルス(COIVD―19)は、今までとは別種類の新型コロナウイルスの為、特徴等がまだ解明されていません。

風邪は、通常、ウイルス等による上気道(鼻・喉)の感染から始まります。私たちの身体には、空気中にウイルスや細菌(異物)があっても、感染しないような防御システムが備わっていて、異物が体内に侵入すると異物を攻撃するため、鼻や喉の粘膜の炎症が現れます。鼻粘膜の違和感からくしゃみが始まり、薄い鼻水が出るようになります。更に進行すると咳や痰が出たり、粘膜内部の組織に炎症が及び、鼻詰まり、酷い喉の痛み、発熱等も出てきます。

風邪に対する西洋医学的な治療では、解熱鎮痛剤を中心に咳があれば咳止め、痰が絡んでいれば痰切等と、症状に応じて複数の薬を併用するのが一般的です。ウィルスは変異が激しいため、特効薬は開発されていません。いずれも風邪の原因を取り除くものではなく、あくまで対処療法です。

一方、漢方的には、かぜ=風邪(ふうじゃ)と言い、六淫(りくいん)(じゃ)のうちの「風邪」によって身体が侵されて発症すると考えます。風邪は進行が早く、寒邪または熱邪と合体して、症状が次々に変化します。風邪は体表(毛穴、鼻腔、口)から侵入するので、風邪の初期は、体表面の違和感(ゾクゾク感や節々の痛み)、鼻水、喉痛、頭痛などの症状が現れます。漢方では「表証」と言い、体表に邪が入り込んで、いまだ軽傷の状態です。次に侵入したのが寒邪か熱邪かを判断します。「寒邪」は、悪寒、首や背中のこわばり、透明でダラダラな鼻水、くしゃみ、喉のイガイガ、頭痛が特徴です。「熱邪」は、喉の痛み、発熱、関節痛、頭痛、鼻詰まり、黄色い鼻汁等、炎症性の症状が特徴です。この症状に合わせて漢方薬を選びます。風邪は初期に対処すれば早く治りますが、放置すると「裏証」といって身体の内面に侵入してしまいます。咳や痰の肺症状、下痢や腹痛の胃腸症状が発症すると、重症化し治りにくくなります。

この他、風邪が侵入した際に風邪に対する抵抗力や反応によって「実」か「虚」かを見極めるのも重要です。症状が激しく現れるのを「実証(じっしょう)」、あまり激しく現れないのを「虚証(きょしょう)」と言い、この「表と裏」「寒と熱」「実と虚」によって選ぶ薬が異なります。風邪だからと放置せず、軽傷の引き始めに早めに相談ください。

風邪によく使われる漢方

<葛根湯>=かっこんとう

構成生薬 :葛根・麻黄・桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草

葛根湯の最大の特徴は「辛温解表」です。悪寒(おかん)・発熱・無汗(むかん)等、感冒(風邪)の初期や、肩こり等に使われます。主役の葛根は、マメ科のクズの根の周りを取り除いて乾燥させたもので、体内の熱を冷ましながら発汗を促して、うなじや背中のこわばりを取っていきます。麻黄は発汗・(ちん)(がい)作用の他、気管支の痙攣(けいれん)を抑制する作用があり風邪の漢方薬に多く配合されます。桂枝は気の巡りを整え、生姜は桂枝と共に発汗作用を増強させます。芍薬は補血と鎮痛効果があります。甘草で消炎と諸薬の働きを調和させ、大棗は胃腸の機能を整えたり精神を安定させます。

葛根湯は青いタイプの風邪(寒邪)と言われ、寒気があり、咳やサラサラした鼻水、頭痛や節々の痛みがある時に、発汗促進して寒邪を追い出す漢方薬です。

効能効果:体力中等度以上のものの次の諸症:感冒の初期(汗をかいていないもの)鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み

<桂枝湯>=けいしとう

構成生薬 :桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草

桂枝湯の最大の特徴は「辛温()()」です。悪風(おふう)自汗(じかん)、発熱、頭痛、身体痛、鼻水、鼻詰まり、くしゃみ等に使われます。悪風とは風に当たるとゾクゾクと寒気がしてくる事で、自汗は何もしなくても自然に出る汗の事を言います。

主役は桂枝で体表を温めます。桂枝の作用を生姜が助け、共に体を温めて発汗させますが、芍薬を配合する事により発汗過多を防ぎます。滋養・強壮作用のある大棗は消化機能を補助し、甘草は消炎と諸薬を調和させます。

桂枝湯は体力がなく、胃腸が弱かったり、日頃から疲れやすく風邪を引きやすいタイプの人に使います。年配者の風邪や、下痢を伴う風邪にも使われます。

効能効果:体力虚弱で、汗が出るものの次の諸症:かぜの初期

<銀翹解毒散>=ぎんぎょうげどくさん

構成生薬 :金銀花・淡竹葉たんちくよう芦根ろこん・連翹)・荊芥・薄荷・淡豆鼓たんずし・牛蒡子・桔梗・甘草

銀翹解毒散の最大の特徴は「清熱解毒」と「辛涼解表」です。喉の痛み、咳、頭痛、発熱等に使われます。金銀花と連翹はよく使われる清熱解毒剤であり、消炎・解熱・抗菌抗ウイルス作用を持ち、炎症や化膿を鎮めます。淡竹葉はイネ科ササクサの全草で解熱に働き、芦根はイネ科アシの根茎を乾燥した物で、消炎抗菌を補助する事から肺や気道の炎症に効果があります。桔梗は去痰、鎮咳、排膿作用を持ち消炎により喉の痛みを緩和します。

銀翹解毒散は赤いタイプの風邪(熱邪)と言われ、熱感が強く、咽頭痛や発熱等、炎症症状がある時に使用します。体に強い冷えを感じる人や悪寒を感じる時は使わないようにしましょう。

効能効果:かぜによる喉の痛み、せき、口(のど)の渇き、頭痛

風邪の民間療法

<板藍根>=バンランコン

板藍根はアブラナ科のホソバタイセイの根の部分で、4月に黄色い花を咲かせます。中国では古くから風邪やインフルエンザの常備薬として用いられてきました。冬場はうがいをする時に板藍根の煎じ液を使うという習慣があります。

家庭でできる養生 薬草風呂

<よもぎ風呂>

よもぎは、キク科のヨモギ又はヤマヨモギの葉や枝先を乾燥したもので、生薬名を(がい)(よう)と言います。各地の山野にみられる多年草で、葉は裏面に白毛を密生し、夏に淡褐色の小さな頭状花を穂状に付けます。寒い時期は、血行促進のあるよもぎ風呂がお勧めです。ガーゼやお茶パックによもぎを詰め、水のうちからお湯に入れて沸かします。入浴中は袋で体をこすっても良いです。

次回のご案内

次回の年明けのテーマは、年末年始にも多い胃腸のトラブルについてお伝えします。