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秋冬の皮膚トラブル

今月の漢方
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 以前、夏の皮膚トラブルについて取り上げました。秋冬に発症する皮膚病は夏に比較すると少ないものの、元々の体質が乾燥肌、冷え症の方は季節や気候等の(がい)(じゃ)(そう)(じゃ)(かん)(じゃ))を受けやすく、秋から冬にかけての乾燥と冷えによる血流障害や年齢、ストレス等によって悪化しやすくなります。足先指先に強い痺れを感じたり、しもやけになったり、皮膚(ひふ)掻痒症(そうようしょう)になる方もいます。

 皮膚の働きと構造・・・皮膚には外部からの異物の侵入や攻撃から体を守り、その一方で体内から水分が蒸発するのを防ぐバリアの役割があります。バリア機能が働いている健康な肌はセラミド(細胞間脂質)が十分に守られ、水分も保持できています。バリア機能が低下すると、外からの刺激を防げなくなり乾燥肌やかゆみ等が発生します。

 皮膚の厚さは2ミリ位で、構造は外側から「表皮」、「真皮」、「皮下組織」の3つに分けられます。表皮の厚さは約0.1ミリで、その外層には角質があり、身体表面を保護しています。皮膚は常に新陳代謝していて古い細胞が剥離(はくり)し、新しい細胞が表面に出て新しい角質となります。このサイクルをターンオーバーと言い、ターンオーバーが乱れると、皮膚のバリア機能の低下を招きます。

 漢方的な捉え方としては、身体の表面は皮膚、汗腺、うぶ毛等に覆われており、(しん)(えき)(けつ)()(じゅん)されていれば外邪の侵入を防ぐことができます。津液とは人体の正常な(すい)(えき)全ての事で、臓腑や組織器官にある体液や正常な分泌物を含めて、津液と呼んでいます。体内で津液が絶えず生産され、常に散布され潤いを与え排泄され続ける事が津液代謝の基本概念です。一方、津液と共に重要な働きをするのが(けつ)です。血は全身の組織、臓腑、関節、皮膚等に栄養と潤いを与えます。

 しかし、暑い夏に比べ寒冷な気候により、冷えて新陳代謝の低下と血流悪化が続くと、各器官の潤いと栄養の不足を招き、皮膚が乾燥し、足先指先や(すね)、腰回り、腕等のかゆみが強くなります。

 西洋医学では、かゆみに対して抗ヒスタミン薬やステロイド剤を用いたり、保湿剤を塗ったりする治療が行われています。漢方では乾燥した皮膚を潤して栄養し、かゆみと炎症を軽減する生薬や外用薬を用います。

秋冬の皮膚トラブルによく使われる漢方

<当帰飲子>=とうきいんし

 構成生薬: 当帰・芍薬・地黄・川芎・防風・荊芥・何首(かしゅ)()(しつ)藜子(りし)・黄耆・甘草

 当帰飲子の最大の特徴は「補血潤燥(ほけつじゅんそう)」と「袪風(きょふう)止痒(しよう)」です。乾燥性の皮膚(ひふ)掻痒症(そうようしょう)や蕁麻疹、湿疹等に使われます。

 当帰飲子は補血の四物湯(当帰・芍薬・地黄・川芎)を基本とし、血虚を改善していきます。防風は温めて発汗させ、荊芥には皮膚の血行を良くし汗腺の分泌を高める働きがあります。何首烏と蒺藜子はステロイド様作用を持ち、いずれもかゆみを止める効果があります。黄耆は諸薬を導きながら肌表(きひょう)(皮膚)の気を補い皮膚の機能を高めていきます。甘草は黄耆と共に消化吸収を強めます。当帰飲子は(けっ)虚生風(きょせいふう)(血虚に伴って発症するかゆみ)や、皮膚がカサカサしたり、掻きむしって少量の出血やかさぶたができたり、比較的体力がない冷え性の人に向きますが、特に高齢の方や貧血の方によく用いられます。

効能効果 :体力中等度以下で、冷え性で皮膚が乾燥するものの次の諸症:湿疹・皮膚炎(分泌物の少ない物)、かゆみ

<温経湯>=うんけいとう

 構成生薬: 呉茱萸(ごしゅゆ)・桂枝・当帰・芍薬・川芎・牡丹皮・半夏・生姜・麦門冬・()(きょう)・人参・甘草

 温経湯の最大の特徴は「(おん)経散(けいさん)(かん)」と「補血化瘀(ほけつかお)」です。しもやけや皮膚にツヤがなく手足が火照るもの、口唇(こうしん)の乾燥、主婦湿疹等に使われます。

 主薬は呉茱萸で身体を温め、冷えを取り除き、桂枝は発汗させ血管を拡張し鎮痛に働きます。当帰、芍薬、阿膠、麦門冬は身体を栄養・滋養します。阿膠で補血、人参、甘草、生姜、半夏で消化吸収を高め新血の再生を促進し、甘草で調和させます。特に阿膠は補血作用に加えコラーゲンが含まれている為、乾燥性の皮膚症状を改善します。

 夏の時期は比較的調子は良いが、秋から冬にかけて全体的に皮膚が乾燥し悪化する場合に用いられます。湿疹の場合は、熱症が強くてかゆみが強いものには適用せず他の処方を選びます。

 効能効果 :体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)

薏苡(よくい)(にん)(ハトムギ)>美肌のお手伝いに

 肌のターンオーバーは年齢と共に低下していきます。潤いが不足して季節の影響を受けると気持ちも沈みがちになりますが、お肌の調子が良いと気持ちも前向きになるのではないでしょうか?

 そこで、肌荒れでお悩みの方にお勧めしたいのが薏苡仁(ハトムギ)です。薏苡仁はハトムギの皮を除いた種で、ビタミンB群が多く含まれています。ビタミンBは肌から余分に出てしまう皮脂の分泌をコントロールして皮膚の再生・成長・維持という重要な働きをしています。その他、体の水分バランスを整える作用があり、肌荒れやイボ等に効果があります。ハトムギ入りのお茶も手軽に取り入れて美肌を目指しましょう。

外用薬

<紫雲膏>=しうんこう

 (けつ)を補いながら肌を潤す当帰と、解毒・殺菌効果のある()(こん)(ムラサキ科ムラサキの根を乾燥させたもの)の成分をゴマ油・ミツロウ・豚脂で熱抽出した軟膏剤です。紫根は基材のゴマ油と共に皮膚の再生を促進します。皮膚の状態としては、乾燥や冷えによる湿疹、皮膚炎、ひび、あかぎれ、しもやけ、魚の目、あせも、ただれ、また外傷、火傷、痔核による疼痛、肛門裂傷等で化膿、分泌物が多くない皮膚トラブルに使われます。

次回のご案内

 次回のテーマは風邪です。風邪のタイプもいくつかありますので、風邪の症状別に使われる漢方薬の選び方をご紹介します。