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婦人科の漢方vol.2 妊活

今月の漢方

妊娠したいと思い始めてから2年経っても妊娠しない…そんな悩みを抱えていませんか?

女性が社会進出し、忙しい日々を送る中で自分の生活や身体を見つめなおす機会のお役に立てればと思い、今月は妊活を取り上げます。

漢方では生命の誕生、発育に必要な物質を「精」と言います。「精」には「先天の精」と「後天の精」とがあり、「腎」に蓄えられます。「腎」は成長、発育、生殖に深く関わっています。「先天の精」は両親から受け継ぐもの、「後天の精」は飲食物などから得られる発育に必要な栄養物です。女性の発育は、7の倍数の年齢で変化すると言われています。14歳で卵巣から女性ホルモンが分泌され初潮を迎えます。21歳で腎の機能が充実し、女性ホルモンの分泌量のピークである28歳まで、気力体力が充実して妊娠・出産の適齢期となります。現在では晩婚化により、28歳以降の妊娠・出産が増加傾向にありますが、35歳で女性ホルモンが減少、49歳で枯渇して更年期を向かえます。

当店には多数の方が妊活で来店されますが、女性側の子宮関連の問題、男性側の精子の問題など様々です。漢方では女性の不妊の原因は、「精」を蓄える腎機能の低下の「腎虚」と「血の異常」と捉えています。

腎虚について

「腎」には二つの種類があります。体を温める「腎陽」と、胞宮(子宮や卵巣の総称)を潤し栄養を与える「腎陰」です。「腎陽」の不足を「腎陽虚」と言い、低体温症で高温期にならない、受精卵が着床しないなど子宮寒冷の症状が現れます。「腎陰」の不足を「腎陰虚」と言い、陰液不足(血の不足)となるので、卵子の不育、子宮内膜厚の不足などになります。腎陽と腎陰のバランスが崩れると、基礎体温が綺麗な二層線にならず、一層線やガタガタ(上下を繰り返す)になったり、排卵日が不明確などになります。女性の妊娠に重要な「腎の機能」と「血」を正常な状態に保ち、自然妊娠を目指して漢方薬を活用していきましょう。このような生殖機能の低下を改善する方法を漢方では、「補腎」と言います。「腎」を強化する補腎をする事で生殖機能を整えます。「補腎」については、男性も同様と言えます。

血の異常について

「血虚証」は「血」の栄養と滋潤作用が低下し、卵子の育成、子宮内膜の生成に影響を与えます。「血」に寒邪が侵入し、血液障害を引き起こす事を「血寒証」と言います。月経痛を引き起こしたり、子宮寒冷によって卵子の着床やその後の育成を阻害します。「血虚証」や「血寒証」が進むと最終的に「血」が体内で停滞する「瘀血証」になります。瘀血が体内や胞宮で生じると、古い血が溜り、栄養や酸素の豊富な新血が十分に行き渡らないため、流産しやすくなります。

女性の妊娠に重要な「腎の機能」と「血」を正常な状態に保ち、自然妊娠を目指して漢方薬を活用していきましょう。

妊娠にまつわる病症

●子宮発育不全 

子宮の大きさが同年齢と比べて小さい状態の事を言います。発育途上で卵巣機能異常により女性ホルモンが不足する事が原因です。正常に発育した子宮が萎縮したり流産を繰り返す事もあります。

●排卵障害

排卵が起こるまでの過程に異常がおきて卵が育たない、育ってもうまく排卵できない事を言います。病証としては自律神経異常の排卵障害や卵巣機能低下、多嚢胞性卵巣症候群、黄体機能不全、高プロラクチン血症(乳汁ホルモン異常)などがあります。

●無月経 

原発性無月経(18歳を過ぎても初潮が訪れない)子宮や卵巣または膣の発育不全、脳下垂体、視床下部などの障害、副腎の病気や染色体異常などがあります。続発性無月経(初潮が来てから3か月以上月経が来ない)ストレスやダイエットのし過ぎ、過度な運動による栄養不足と性ホルモンの低下などが原因です。 

●不育症

妊娠はするものの、流産や早産を繰り返したり、死産になったりする事で、結果的に出産まで行きつけない場合の事を言います。

補腎に用いられる代表的な漢方

<六味地黄丸>=ろくみじおうがん

構成生薬 熟地黄・山茱萸・山薬・牡丹皮・茯苓・沢瀉

六味地黄丸の最大の特徴は「滋補肝腎」です。主に肝と腎の陰を補います。肝腎陰虚になると、陰液不足や内分泌系及び自律神経系の失調に伴って無月経や無排卵などが発生します。主薬となる熟地黄は肝腎陰虚によく用いられ、血の不足を補い、腎の働きを活性化します。山茱萸は赤い果実を乾燥した物で酸苦味で収斂作用があり、頻尿などに使われます。山薬はナガイモの根茎で、外皮を除去して乾燥した物です。一般的には自然薯と呼ばれています。消化を助け気力を増し筋肉を強めるなど滋養強壮の効果もあります。活血作用のある牡丹皮は血行を良くして熱を冷まし、瘀血を取り除きます。茯苓と沢瀉は体内に停滞した過剰な水分を除去しながら脾の働きを改善します。

<八味地黄丸>=はちみじおうがん

構成生薬 熟地黄 山茱萸・山薬・牡丹皮・茯苓・沢瀉・附子・桂枝

八味地黄丸の最大の特徴は「温補腎陽」です。八味丸は腎陽虚の代表処方で、六味地黄丸に附子と桂枝を加えたものです。腎陽虚になると体温を上げる力が弱くなり、高温期が継続しない、冷え性などの問題になります。そこで温煦作用が強く、補腎もできる附子、桂枝が追加されています。

<海馬補腎丸>=かいまほじんがん

構成生薬 海馬・鹿茸・地黄・山茱萸・桃仁・茯苓・人参・黄耆・当帰・丁子・枸杞子・竜骨・補骨脂・対蝦・海狗腎・鹿腎・鹿筋・驢腎・蛤蚧

海馬補腎丸の最大の特徴は「滋養強壮」です。特に、海馬(タツノオトシゴを乾燥させたもの)や、鹿茸(若い牡鹿の幼角を加工したもの)等動物性生薬を含みます。

貧血、冷え性などに用いられる代表的な漢方

「温経散寒/補血化瘀」に対応する処方は『温経湯うんけいとう』があります。 

<温経湯>

構成生薬 呉茱萸・桂皮・当帰・川芎・牡丹皮・阿膠・芍薬・麦門冬・人参・甘草・生姜・半夏

温経湯の最大の特徴は「温経散寒」と「補血化瘀」です。温経散寒とは熱性の生薬で血行を良くして体を温め、冷えを改善することです。温経湯の主薬である呉茱萸と桂皮には、血行促進と鎮痛作用があります。陰陽論で女性は陰に属し、元々冷えやすい体質です。冷えが酷くなると血行が悪化し、子宮寒冷を招き、瘀血が発生します。補血化瘀とは、血を補充し瘀血を解消する事です。瘀血は血を滞らせ、不通即通により痛みを発生させます。また新血の生成も阻害するので血虚を招きます。血虚により皮膚が乾燥してバリア機能が低下し、湿疹などの皮膚トラブルも起こりやすくなります。阿膠と麦門冬で身体を潤し、芍薬と当帰で血を補充し、牡丹皮、川芎で活血させ瘀血を除いていきます。特に阿膠は、動物の皮から作られる膠(にかわ)のことで造血作用があり、良質のコラーゲンを含むことから「美と健康の秘薬」として楊貴妃が愛飲していたと言われています。

参考までに・・・

妊娠のしくみと基礎体温のサイクルを簡単に記載します。

卵巣の中にある複数の原子卵胞のうち、1か月に1回ひとつだけ卵子に成長し、0.2mmほどになると卵巣の外へと飛び出します。これを排卵と呼びます。排卵された卵子は卵管に取り込まれ精子と受精します。受精卵は細胞分裂しながら10mm以上に厚くなった子宮内膜に着床します。子宮内膜は毛細血管の集合体であり、卵子はその血管から栄養をもらって育っていきます。

婦人基礎体温のモデルケース

・生理1日目~13日  低温期(卵胞期)    漢方では陰の期間

・生理14日目     最低温日(排卵日)  漢方では陰陽転化日

・生理15日目~28日 高温期(黄体期)     漢方では陽の期間

補腎補血の食養生

漢方の五行色体表で、腎は「黒色」です。そして鉄分の豊富な食物も色の濃い物(黒っぽい物)と言われます。白米より玄米、黒ゴマ、黒豆、小豆、ひじきなど、なるべく色の黒い物を積極的に摂る習慣を心がけ、補腎補血に努めましょう。

次回のご案内

次回は更年期を取り上げます。更年期特有のイライラやホットフラッシュ、不定愁訴など、心と身体のお悩みを一緒に改善していきましょう。